もう一生ないかもしれないシャッターチャンスだからこそ

黒狐平玄

2026年2月20日 22:28

3年ほど前、すばらしいシャッターチャンスに巡り合いました

石巻という町が大好き

私は石巻という町が大好きで、写真を撮るためとか釣りをするためによく行きます。
リボーンアートフェスの開催地でもあり、文化的にも、食や観光の面でも、自然の豊かさや歴史の面でも、いや我が仙台より全然優れてるんじゃない?と思ってリスペクトしている都市です。
石巻市はいわゆる平成の大合併で、周辺の自治体と合併し広大な市域を持つに至りました。その時合併した自治体の中に、牡鹿町があります。
牡鹿町には鮎川という地区があって、ここは古くから捕鯨の町として栄えてきました。

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捕鯨盛んなりし頃に活躍した、大型捕鯨船が展示されていて見学できます

ここも、東日本大震災の津波で大きな被害を受け、そこから立ち直ってきた町です。
港はすっかり新しくなり、人々は新しい形で生活を立て直しました。そういう新しいチャレンジの中に「cafe ポートバレーナ」さんというおいしいクジラ料理を楽しめるお店があり、時々訪問しています。今回書いているのも、このお店目当てで鮎川を訪問しているときのことでした。

私、2年ここで働いてるけど初めて見る!

鮎川港には「ホエールタウンおしか」という観光物産施設があります。着いたのが少し早かったので、ここで買い物して時間を潰していたときのこと。
この施設は港に面していて、窓から港が見えるんですが、店員さんが「お客さんお客さん! 今港に入ってきたあの船、クジラを引いてきてるよ! あたしも2年ここで働いてるけど初めて見る! 今すぐ行って見学してみて!」とおっしゃるんです。
そもそも今から買い物するであろう客に、店出てあれ見てらっしゃいというホスピタリティ。黙っていれば買い物してすぐ帰るかもしれないのに。まず、ここに感動です。いや、この方が本当にいい人なんでしょうね。
加えて、え? クジラの水揚げってそんなにレアなの? と思いましたが、お言葉に甘えて即、港に行ってみました。

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ツチクジラの水揚げ

そこでは、海の男たちが体長15メートルほどのツチクジラをウィンチで加工工場に引き上げていました。クジラは肉が傷まないよう、腹を開いた状態で海水で冷やしながら曳航されてきており、出血もあり内蔵も見えていましたが、苦手な方もいると思うのでその写真は掲載しません。あ、私はそういうの平気というか、自分も食べる以上直視する責任があると思っているのでじっくりと観察してきました。

クジラは、公道をまたいで加工工場の敷地内に運び込まれました。海の男たちは気さくに、ゆっくり見学していっていいよ! と言ってくれました。

ツチクジラは、イルカのように細長い吻部を持つクジラです。男たちは、死んだクジラの口先に、ずいぶん長いこと水をかけてやっていました。
あ、これは末期の水だな、と直感。後で調べたら、このような風習は捕鯨が行われている各地に残っているんだそうです。まさしく、クジラの死に敬意を表する、末期の水なんだそうです。

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末期の水

捕鯨には日本人の精神性が凝縮されている

これが、日本人の生き物に対する考え方です。海外の人(特にアメリカ人)は、クジラ類が頭のいい動物だからという感情論で殺すのはまかりならんみたいなことを言ってきますが、そのくせアメリカ国民であるイヌイットの人たちがアザラシを食うのはそういう文化だからとノーカン。命に軽重はないのに人が飼育した家畜はいくら食べてもノーカン。
それに比べたら、動物の死に人の死と同じく敬意を払い、同じ儀式を行う日本人の感性に私は共感します。
田舎に行くと「獣魂碑」というものを見かけます。農業で使役されたり、戦争の犠牲になったり、食料になったりと人間のために死んだ動物の霊を慰めるために建てられたものです。動物は神の恩寵だから人間が自由にしていいのだ、動物じゃなく神に感謝しなさいと教えるキリスト教より、私には自然に受け入れられる考え方です。

1枚目の写真に写っているだけで何人の海の男たちがいるでしょう。彼らやその家族、加工工場の従業員、土産物店の店員といった大勢の人たちを、この一頭のクジラが支えるんです。店員さんが2年務めていて初めて見たということですから、決してたくさん捕れるものでもないし、まして乱獲しているわけではありません。
海の男達のひとりがこう言いました。
「クジラの眼を見てやって。優しい眼をしてるから」

いや、優しいのは兄さんたちだろ(涙)。
結局この日の当たりカットは上の2枚だけ。とても厳かな場で、何枚もバシャバシャ撮るような雰囲気ではありませんでした。このクジラがこの世に生きた証となるように、この2枚にすべてを込めました。
十分以上です、伝えたいことはすべて表現できていると思うから。

カメラは捕鯨船のスクリューの写真はライカフレックスSL / ズミクロン50mm F2,クジラの写真はレチナレフレックス / フォクトレンダー・カラースコパー 50mm F2.8です。

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