オールドレンズの話

写真
宮城県仙台市泉区 鷲倉神社の狛犬さん

オールドレンズとは

世の中にはたくさんのカメラメーカーがあり、それぞれ長い歴史を持っています。中には、80年以上前の自社のレンズが、最新のカメラに装着できるというメーカーもあります。アダプターを介して現在のカメラに取り付けることもできるし、新品当時そのレンズと純正コンビを組んでいたフィルムカメラを使用して撮るという方法もあります。工業製品として、まだまだ活躍できるのです。

古いレンズの存在意義

もちろん、古いレンズは経年劣化しており、設計も製造技術も現在のレンズよりは劣ります。ですから、最新のレンズで撮ったような、バリバリの高解像度で色も目に刺さるほど鮮やか、画面のすみまで歪みひとつないという現代的な絵にはなりません。

でもちょっと考えてみてください。そもそも人間の目って、そんなによく見えるものでしょうか? あなたには世界がそう見えていますか? 現代の人々は圧倒的な映像を見慣れすぎて、現実よりエモい風景を写真の中に求めている人が多いのではないでしょうか。

だから私はオールドレンズを使います。よくオールドレンズは「味がある」みたいな言われ方をしますが、まあ味というか、はっきり言ってしまうと「性能がイマイチだから、あんまり何もかも克明には写らない」のです。

「ちゃんと写らないなんてダメじゃん」って思いますか? 私は絵描きですが、絵のセオリーとして「一番注目してほしい部分に目を行かせるために、他の部分はあえて省略したり、ラフに描く」というものがあります。だから、ちゃんと写らないことを逆に利点とすることも可能なのです。

仙台市泉区 鷲倉神社の狛犬さん

この写真を見てください。狛犬さんの背景のアウトフォーカス部分が、なんだかグズグズ、ザワザワとした感じにボケていますよね。グルグル円を描いているようにも見えます。

これは「収差」といって、レンズの性能的にダメな部分が露呈しているのですが、逆に狛犬さんの立体感が際立って、顔にすっと視点が行くような感じがしませんか?

森に囲まれた神社の狛犬
お互いに歳とったねえ。

そして、現代的なレンズにくらべて圧倒的にコントラストが低く、発色も淡いですね。しかし、長い年月風雨に耐え、人々の思いを背負い、じっと2頭仲良く神社を守ってきた狛犬さんを写すには、この淡さが実によく合うと思うのです。

長い旅路と出会い

このレンズは、エルンスト・ライツ社(現在のライカカメラ)の「ズマー」といいます。私のは1936年製なので88年前のレンズ。亡くなった母と同い年です。少し曇っているので、新品時の性能は出ていませんが、白内障で晩年は外に出ると眩しい眩しいと言っていた母を思い起こさせ、研磨に出すことに踏み切れずにいます。

ペアを組むカメラボディはライカIII。1937年製です。もちろん電池など使わない完全機械式。バネとギアだけで動くカメラです。私の手に渡るまでに、どこでどのような人と、どのような写真を撮ってきたのでしょうか。

彼らは私が死んだ後も、捨てられなければ30年40年と動き続けるでしょう。家族にカメラ好きはいないので、誰か知らない人の手に渡り、フィルムの供給がある限りその人の見た世界を写し続けるでしょう。

なんだか、仲間にことごとく先立たれても長い一生を淡々と生き続ける、あのエルフの魔法使いみたいですね。あ、それよりあと13年で付喪神だわこいつら。

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